2023年3月11日土曜日

舞台美術ワークショップ③


3月11日(土)、舞台美術ワークショップ③が行われました。

この日は土曜日ということで、いつもより早い13:30からスタート。

いよいよ舞台美術を実際に製作していく作業に入っていきます。


今回は長峰さんが強力な助っ人を連れてきてくれました。

大道具の宮本洋平さん。

もともとはNHKの子ども番組をはじめ様々な現場で大道具さんをして、現在はフリーランスで活躍されています。 


長峰さんから宮本さんのご紹介。
「私の片腕ともいえる宮本くんです。市民館にはぴったりかなと思って連れてきました。」


作業を始める前に、長峰さんから舞台美術がどういう流れで作られていくのかと、今回のワークショップではどのように作業を進めていくのかお話いただきました。

長峰さん「今回はちょっと異例なやり方をしているんですが、皆さんの絵本がテキストとしてスタートにあって、それをプロセニアムアーチ…劇場らしい形の劇場で上演するので、それにあった絵を皆さんの絵本からサンプリングして作りました。舞台美術家がやることもまったく一緒で、はじめエレベーション、いわゆる正面図を書きます。普通戯曲があるときは、このシーンはこういう絵があるというのを平面図と絵で見せていくんですけど、今回は自由だったんで自分で自由に作りました。皆さんの絵本から、これは面白いかもと思った『点と線』を感覚的に一つずつ取って配置していきます。デザイン画を描いた人はイメージが掴めるんですが、演出家や出演者みんなが分かるように、立体の模型を作ります。」

エレベーション

実際の模型も作ってきてくださいました


長峰さん「舞台美術は分業制になっているので、まず舞台美術家、プランナーがいて、大道具会社に発注します。大道具会社にもセクションがあって、大工さんや背景さんがいて…。背景さんはデザイン画の絵を実際の大きさに拡大して描いていくんですが、最近は大型プリンターでの出力が多くなっていて…。でも人が描いたものはやはりいいんです。今回はいわゆる書き割りという平面に絵を描いたものがメインになるので、背景さん的な作業を皆さんに体感してもらおうと思っています。最初は出力でやろうと思っていたんだけど、この小さい絵を試行錯誤して大きく作るのも面白いかなと思って。大きいものにするのにどうやって転換していくかを身体を使ってやっていきます。少し遊びながら、吊りなどのテクニカル的な部分は宮本さんや劇場スタッフの助言をいただきながら作っていければ。」


さらに、手に取ってみせてくださったのは道具帳。

道具帳

長峰さん「この絵はこの寸法ですよと書いてあるものを道具帳と言います。平面図、正面図、模型、書き抜き図面、道具帳、このセットを大道具さんに渡して作ってもらいます。今日は書き抜きの大道具を実際に作っていきましょう。」

道具帳の上の方に、『もやもや』や『微生物』などそれぞれ別の言葉が書かれています。これは道具の名前なのだそう。

「名前があるとみんなの共通事項としてやりやすいので。今日は太陽と風①を作っていこうと思います。ほかの道具は書き割りだけではなく、絵に合わせて変えていく感じでやってみたいです。絵の雰囲気を舞台上でどう再現するか。」


ダンボールパネルや、ロールの大きなわら半紙、クラフト紙などを使って作っていきます。



作業に入る前に宮本さんから大道具を作る際の考え方について詳しくお話いただきました。

宮本さん「舞台美術家やデザイナーの意思を汲んで作っていくんですが、まず手順で言うと、どういう風に材料を使っていくのかを計画します。実際の大道具の手法でいくと、作業をしている部屋から大道具を出して劇場まで運ぶのに、何人の人でどのくらいの時間がかかるかをプロの人は考えます。今ここでやっていることも、他の劇場に行く場合はトラックを借りないといけないかもしれないし、その場で作らないといけないかもしれない。状況によっては作り方が全部変わるかもしれない。今回も分割して作ります。じゃないと部屋から出ないので。なので、それまで考慮して材料の割り方を考えて作っていきます。」

ケガに気を付けながら実際の作業がスタート。


■まずは『太陽』から

みんなでダンボールパネルを並べていきます。


そして並べたパネルをクラフトテープでつなぎ合わせて貼り合わせていきますが、その前に…

「1ミリのずれも、10メートルの大きさになるころには1センチのずれになっていたりします。」と宮本さんから助言が。

ずれないように…皆さん集中して作業をしています。


ひっくり返すときはみんなで一緒に。
こうしてみると大きい~~!

皆さんが作業をしている間に、角材や釘を使って宮本さんがお手製のコンパスを作っていました。

テープでつなぎ合わせたほうを裏にして、絵を描くための下地の紙を貼ったら、いよいよ大きなお手製コンパスで円を描いて切っていきます。

円を描く作業は2人くらいがやりやすいということで、宮本さんと、舞台の仕事をされていて大道具の経験もある部員のイチカワさんがコンビになって行いました。


線に沿って丸く切っていけば、太陽の土台が完成!
きれいな円形です!


■風をつくる・中道具、小道具のディスカッション

次は5人くらいで「風」を作るチームと、中道具と小道具を作っていくチームに分かれて作業していきます。

宮本さん「一番大変だと思っていた太陽がこんないい感じにできて…。皆さんどんどん取りかかってくれて本当に助かって、こうなったんだ…って感じです。皆さんのこと知らなかったからすごいなって。」

風①の作業は宮本さんが見守りながら、中道具や小道具については長峰さんと方針を決めて、できるところまで作業していきます。

風①を作っていくチーム。宮本さんのアドバイスのもと、協力しながら作業を進めていきます。



中道具・小道具の方は、3、4人くらいの4チームに分かれて分担して作っていきます。

宮本さん「これは長峰さんと皆さんのイメージをシンクロさせていくような作業になります。太陽は絵というしがらみがあったので、円形にしましたが、他の道具は例えば紙をくしゃくしゃにして貼ってもいい。たまにはまっすぐじゃないと困るものもあるし、うねうねしている方が調子がいいものもある。そういう感じで、残りの道具帳を机に並べて皆さんの目線で決めていきたいです。」

長峰さん「しわみたいにしたいとか、そういう考え方で、作り方をディスカッションしていきたいと思います。」

宮本さん「道具として使えないといけない。危なかったりしてはいけないので、ちゃんとパーツがとまっているかとか、思ったように動かせるかとか、ちょっとルールの部分は丁寧にしていきたいと思います。紙を折りかえすときはテープでとめるとかね。」

道具帳を見ながら、どんな風に作ったら良さそうかを話し合って決めていきます。

「作りやすそうなものから1個作ってみてもいいですね。」と長峰さん。

「ここ切っちゃっても面白いかもね~」など、皆さんから出た案をさらに生かしたアドバイスをしていくださいました。


方向性が見えてきたチームは実際に作業をしたり、試し描きをしてみました。



3時間という長さのワークショップでしたが、集中して作業している間にもう終了の時間に。

「明日も頑張ってください。皆さんすごいですね。すごいとは聞いていたんですが、本当に一緒に作業できてありがたいです。」と宮本さん。次回いらっしゃるのは来週。

「中道具や小道具のアイデア出しをして、Go!ってところで今日は終了なんですが、気持ちを明日に持っていって。風を作ったチームには、明日は太陽と風の絵をお任せします。」と長峰さんからも一言お話いただいてワークショップ終了です。


たくさんの作業を集中して行った今回のワークショップ。

ケガに気をつけながら、楽しく作業していきましょう。

(マネージャー・まりこ)


* * * * * * * *

2023年3月11日(金)舞台美術ワークショップ③
講師インタビュー

「長峰さん、宮本さんに聞く!」

 ―今日は長峰さんに加えて宮本さんに入っていただいたんですが、作業をしながらその場に合わせて、ある意味基点となるような声がけをスッと差し込まれていたのが印象的でした。
(宮本)
今回は、ただやって終わりというのではなくて「見せる」っていうゴール地点があって、そこへの進め方ってあると思うんですが、「疑似体験」っていうのがぼくのやるワークショップの考え方なんですよね。そこに生活の足しになるようなことを入れようと思ってます。釘が飛び出ていて事故が起きるんだったらやっぱり抑えるべきだし、そういう要素をみんなが持っていれば、いい仕事につながりますよね。それに、舞台は共同の仕事だから、通りすがりに「あんときありがとね」ってひと言入れることがどれだけ大事か。グルーヴですよね。

―昨日、柏木さんとも「ちゃんと話そう、言っていこう」っていう話をしていたんですけど、つながっています。何かをつくっている先にだれかがいるということを感じられる声がけも多くて、それが一緒に楽しくつくっているなかでの言葉だから、みなさんに入っていっているように見えました。
(宮本)
あと、長峰さんはやっぱり美術家さんなので、ビジョンがあって締めるところは締める。後半、グループごとディスカッションするという流れにしたんですけど、みなさん各々がもつ力のうえに、長峰さんがスパイスをかける場を用意しようっていうのが今日の裏テーマでした(笑)。みなさん個性もあるし、ルートはばらばらでいいんだけど、長峰さんが示す「こうしたい」というビジョンに、それぞれのやり方で走りつづけてたどり着くというか。ここの土地にもともとある力に、外の人をまぜて対流させることで、積んでいるエンジンがオイル交換されるみたいな感じですよね。

―長峰さん、柏木さんのいう「変容」の部分ですね。もともと力はあるんだけど、何かしらの出会いによって変化する。違う形に生まれ変わるという。
(長峰)
確かに。そこが持続性につながりますよね。今回、わたしも実験精神を大切にしていて。参加しているみなさんが自分から考えてやるメンバーなので、意見交換しながらその場で進めていくやり方がいいなって思ったんです。教えるというより一緒に考えながら新しいことをやりたいって思えたんですよね。それで、決まったものをつくるっていうより、その場で変わっていくかもしれないんだけど……ということに対応できるのは宮本くんだったので(笑)、今回助っ人をお願いしたんです。
「点と線」の絵を劇場の大きな空間に持っていって、演劇に落とし込むっていうのはわたしにとっても初めてのことなので、すごく楽しみです。これをクリアできたら次につながるというか、これをベースに新しい、もっと面白いことができるなって。
今までやってきた経験値をもとに、そこに収まらない新しいことをやる。経験値を超えたチャレンジができる。ここ(市民館)には失敗とか成功っていうんじゃなくて、おっきい器というか、場がある。「楽しく、楽をしない」っていうのができるといいなと思ってます。 

(宮本)参加している人にとっても、こちらにとってもチャレンジになる場っていうのが、ここ(市民館)のビジョンなんですね。そうすれば相乗効果でクオリティが上がって、ここに来たら面白いものが観られるっていう確固たる理由になる。当たりもあれば外れもあるっていちばん面白いじゃないですか。そういうエネルギーが対流するところになったら最高ですよね。やっぱり「人」がすべてだし、未来への投資ですよね。


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